ドーピングについて考える

今回は先月開催されたドーピングありの大会エンハンスト・ゲームズについてマクロな視点で書かせて頂きました。

今回も先週noteにて書かせて頂いた記事をこちらのブログでも紹介という形をとらせて頂いております。

最初にこのニュースを知ったのは3年程前でペイパルのCEOのピーター・ティール氏などが出資し大会を開催しようと考えている、なんて記事を見た時には「ほんまにやらんやろ」と思っていましたが、なんと先月このドーピングあり大会が開催されました。。。

まずは第1回エンハンスト・ゲームズの概要をまとめます。

エンハンストゲームズの概略図

日程・開催地・主催

第1回大会は2026年5月24日、アメリカ・ラスベガスで開催されました。
1日のみのイベントです。

運営母体はEnhanced(エンハンスト社)という企業。

中心人物が、あのピーター・ティール。PayPalの共同創業者で、Palantirの会長、いわゆる「ペイパル・マフィア」の筆頭格といわれています。
トランプ・ジュニアが関わる投資ファンドも資金を出していて、さらにこの大会の運営会社は株式市場への上場まで計画しているとのこと。

つまりこれは、思想と巨額のマネーが乗った「事業」といえます。
まずはここを押さえておいて、後半の考察にいきます。

ちなみにティールは「死は克服すべき敵だ」と考え、寿命延長や人体強化といったSFじみたテーマに長年お金を出し続けてきた人物です。

My body, my choice(身体は自分で選ぶ)という理解不能なスローガンを持ち、

自分の身体をどう強化しようが本人の自由だろ、国家が上から禁止するのはおかしいぞという主張を行なっています。

この主張が理屈として筋も通っているような気もしますが、ただ本丸はスポーツではなく、強化医療・抗加齢という、数億人規模に広がる巨大市場

前回のGLP-1の話と根っこは同じで、大会はその未来を見せつけるためのショーケースというわけです。

規模や種目構成

エンハンスト・ゲームズの出場選手は数十名規模で、観客はわずか2,500人ほどで、しかも大半が選手の家族・友人など。
種目数は3競技で20数種目程度。

水泳が中心で、自由形・バタフライ・背泳ぎ・平泳ぎの短距離。
陸上は男女100m。
重量挙げ・ストロングマン系はバーベル種目とデッドリフト。

「記録」が出やすい種目に絞った構成。

賞金など

ここが特殊に映りましたが、ビジネスモデル自体が強化・長寿プロダクトの宣伝装置とのこと。
賞金は各種目の優勝者に25万ドル
さらに公認世界記録を破った選手には100万ドルのボーナス!

で、実際に「世界記録超え」が出たのは1種目で、
ギリシャのクリスティアン・ゴロメーエフが50m自由形を20.81秒で泳ぎ、非強化の世界記録20.88秒(豪のキャメロン・マクエヴォイ)を上回りました。

クリスティアン・ゴロメーエフの画像

クリスティアン・ゴロメーエフ【APアフロより】

禁止されている高速水着着用でドーピングありなので、当たり前ながら記録は非公認です。

意外な点が、男子100m走はアメリカのフレッド・カーリーなど、各種目の勝者にドーピングを使わなかった「クリーン」といわれる選手が複数いたとのこと。

「強化すれば超人になれる」という前提自体が、初回からかなり揺らいだ大会となり、こんな大会に出場するひとは、映画や漫画で出てきそうな白目をむいて鼻息荒く体から湯気とか出てそうなイメージ(下記画像)がありましたが、そんなイメージも吹っ飛ぶくらい普通のなんだか肌感でよくわからない結果でしたね。

ドーピングバリバリのイメージ

で、IOC(国際オリンピック委員会)とWADA(世界アンチドーピング機構)は「不道徳」「危険で無責任な構想」と断じ、世界陸連の会長は参加者を「愚かだ」とまで言ったのですが、ここからは勝村目線でもお伝えいたします。

勝村目線

勝村目線の画像

まずは僕のスタンスでいうともちろんドーピングなどのステロイドホルモンを使い競技パフォーマンスや筋力筋量を劇的に上げるのは反対です。

僕自身でもボディ系コンテスト等に出場したりしていましたが言わずもがなクリーンです(貧弱な体ですので誰も疑いもしないですが笑)

勝村優勝時の画像

で自身のことは置いといて

例えば
スポーツや競技などで使用するのではなく個人で勝手に使う分には問題ないのでは・・・

というところが論争になりそこも含めて僕個人は反対の立場である、ということです。

どうしても引っかかる「影」の部分

そもそも、なぜドーピングは禁止されたのか

実は、禁止薬物のルールが生まれたのは、米ソ冷戦などの政治的背景もあります。

話は1950年代に遡り、当時の重量挙げで、ソ連の選手が異常に強い。
アメリカ側は「あいつらステロイドを使ってるに違いない」と疑い、じゃあこっちも使ってやると、対抗しだした。

これが国家のメンツを賭けた「軍拡競争」の始まり。

その後1960年のローマ五輪で、自転車の選手がレース中に死亡するという事件をきっかけに「選手を守るための禁止ルール」がつくられました。

そして冷戦の影が最も色濃く出たのが、その後の東ドイツの国家ぐるみのドーピングでした。

国家が「スポーツでの勝利=体制の優秀さの証明」
として、

選手たちに組織的に薬を打ち続け、後遺症に苦しむ選手を大勢排出します。

つまり禁止ルールというのは、

「国家が選手を消耗品やモルモット扱いした」
結果できたルール
です。

ここで思い出すのが「ロッキー4」

ロッキー4の画像

ここで思い出したのが、『ロッキー4/炎の友情』

ロッキーのライバルとして登場する、ソ連のドラゴ

ドラゴは科学とドーピングで限界まで強化された「人造の超人」
対するロッキーは、「努力と根性の人間くささ」を出します。

ドラゴは、「国家のために個人を犠牲」国家主義の象徴
ようは薬の使用もいとわない非人道的な完全な悪役として描かれていました。しかも最後は国に反旗を翻してました。

ところが

それから40年が経った今、
あの時否定されていたドラゴの思想を「これこそが正しい未来なんだ」と主役に据え直そうとするティール。

ティールとドラゴの薬を使う大義は・・・


ドラゴ(ソ連)が薬を使う大義は国家のため。個人は国家の道具でした。
対するティールの大義は個人の自由のため。

向いている方向は、まったくの正反対なんですね。
一方は全体主義、もう一方は個人主義。

ただ決定的な共通点があります。

リスクを負って、実際に身体を壊すのは、どちらも末端の選手個人だということです。

ソ連は国家のためと言って選手に薬を打った。
ティールはあなたの自由(個人の勝利)のためと言って選手に薬を使わせる。

掲げる旗は正反対でも、安全圏にいる誰かのために、生身の人間がリスクを引き受けるという構造は同じではないでしょうか。

しかもティールの場合、自由という言葉を隠れ蓑に強化医療という巨大市場で儲けるという、商売の為。

結局、選手は「モルモット」にされている

身体は選手に張らして、その果実(市場と上場益)を安全な場所にいる投資家が手に入れる。要は利用されているだけなんですよね。

あくまで僕個人の勝手な結論ですが、

エンハンスト・ゲームズは、

「人類を進化させる」という大義のもと、選手という生身の人間を実験動物(モルモット)にしている

僕にはそう見えます。

ステロイドにせよ成長ホルモンにせよ、身体への負担は明確にあります。それを「自由」という言葉でコーティングして、選手に引き受けさせている。そして万一、後で重い後遺症、ないし選手の命が失われても、その責任は投資家は負いきれないです。

実際、未来を切り拓く主役ではなく新しい市場を立ち上げるための、最初の実験台にされているだけではないでしょうか。

ソ連とティールの対比図

最後に・・・

これも前回の記事に繋がるのですが、トレーナーという仕事で一番大事にしているのは、

クライアントの身体、健康を預からせていただいている

ということです。結果を出すこと以上に、その人の身体を心身ともに健康にしてお返しすること。それがトレーナーの本分だと思っています。

エンハンスト・ゲームズに限らずドーピング容認トレーナーは見た目の筋肉、記録へのこだわりが強く思想が偏っているように映ります。

今回長々となりましたが何故、禁止薬物が禁止になっているかという所以をもう一度考え直す良い機会になったと改めて感じました。